事件の再現

これは一体何の捜査なんですか？

とりあえず、あらかたの事情聴取を終えると、今度は我々の証言に基づき、「事件の再現」を致します。これがまた胡散臭くて仕方のない作業でしてね。なんせもう一度あの一連の証言をしながら、再現する訳ですからね…
んもぅ、聞いて下さいよ！奥さん！(>_<)って感じでして...

とりあえず、刑事の一人が犯人役、我々二人はもちろんそのまま従業員役、鑑識官が写真撮影、ベテランとおぼしき一人の刑事が、進行役(監督)、みたいな感じでスタートです。

「はい。強盗が入って来た所からスタートです。その時の大体の位置に二人共ついて！」我々バイトは言われた通り、まだ検品の途中の商品が放置してある棚の前に移動しました。ちゃんと作業する振りもします。実際、少し位は値付をしながらですが。

警官「はい、で、強盗が入って来て……。で？」
我々「ホラァ金出せ！と言われました。」

「ホラァ、金出せ！」強盗役の刑事さん、銃をあげる振りまでして、逐一ちゃんと再現します♪
「その後は、近くにいた相方が強盗に……」言いかけた途端に、

警官「ストーップ！じゃあまだその時点では、強盗は誰にも接触していないんだな！？」
我々「はい、そうです。」
警官「じゃ、測って！」

鑑識官が、相方と犯人役の刑事との距離を測ります。「その時の犯人との距離、およそ２メートル５０センチ！」。。。パシャリ！鑑識も一枚再現写真を撮ります。

警官「はい、それからどうしたの！？」
我々「犯人に腕を捕まれて、早くしろ！と、相方はレジの方へ追いやられました。」

「犯人に腕を捕まれたんだね！？はい、測って！！！」「その時の犯人との距離、およそ５０センチ」。。。パシャリ！鑑識も一枚撮影！

警官「それから？」
我々「犯人がカウンターの上に投げて寄越した、緑色のナイロン製の袋に、現金を詰め始めました。僕は２レジも開けるように言われたので、鍵を事務所に取りに行き、２レジを開けて、犯人の用意したもうひとつの袋に、やはり同じように現金を詰め始めました。紙幣のみを入れていたら犯人が、小銭も全部入れろ！というので、とにかくあらかたの現金は入れました。」

「小銭も入れろ！と。言われたのね！？」刑事さん、逐一メモを取ります。「ケチな犯人だなぁ……（爆）」と言ったかどうかは覚えておりません。

警官「で、それから？」
我々「下に入っている金も全部入れろ！と言うのですよ。初めは何の事を言っているのかさっぱり分からなかったので、何の事か分からないって言ったんですよ。そうしたら、いきなり身を乗り出して、レジの現金収納箱を上に持ち上げて、中身を自分で確認していました。」

「ははぁ、自分で身を乗り出してきたのね！？で、中身を確認したと。はい。測って」「その時の犯人との距離、およそ３０センチ！」パシャリ！もはや記念撮影です。

警官「で、その収納箱の下に入っているお金は取られたんだっけ！？」

…(-_-#)だからさっきから話しているでしょうがそこには現金は入れていないんですって取られたのはレジの通常のつり銭だけなんですって(-_-##)何でさっきから犯人との距離とか測っているんですか写真まで撮ってそんな事する意味が何かあるんですかぁぁぁーーー！？ハアハァ。

我々「いえ、ですからそこにはお金は入れていなかったので、犯人はあらかた現金の詰め終わった二つのポーチを持って、逃げて行きました。」

警官「で、どっち逃げた？」

……もう怒る気力も湧きません。その質問には無視して、もう残りの作業をしても良いかたずねました。なんせ、牛乳やデザートなど、常温で放置してはまずいものばかりがまだ残っていたので。「いや、もうちょっと待って。まだ動かさないで。捜査の途中だから。」

もうね、本当にね「これは一体何の捜査なんですか？」って聞きたくなりましたよ。

警官「犯人に心あたりは？」

もうね、お前は何年刑事をやっているんですか！？っていう質問です。ある訳が無いし、あったら真っ先に（犯人はＯＸだ！間違いない！）とか言っていますよ！

警官「で、拳銃は本物だったの？あァ、そんなの見ても分からないか！？」

…なら聞くなよ…

警官「犯人が逃走するとき、防犯ベルとか鳴らしたり、防犯ボール＜中に特殊インクが入っていて、当たると中身がぶちまけて、犯人にそのインクが付着するカラーボール＞は投げたの？」
我々「いいえ、それどころではなかったので、投げませんでした。」
警官「ああ、良かったね。投げない方が良いよ。あんな物、下手に犯人に当たっちゃって刺激したら、何されるか分からないからね。防犯ブザーもね、実はあれ鳴らすの危ないんだよね。相手によるけど。」

っておーーーいい！！！じゃあ何でそんな物置いておくのさ！！！警察から撤去するように指導してよ！まァ、抑止力にはなるのかも知れませんが、下手に投げない方が良いらしいです。次回気をつけたいと思います（爆）。

そうこうしている内に、明け方の山崎パンの納品も来てしまいました。また、その配送のおっさんが頭に来た。もうこっちは何でも頭に来る心理状態になっていたので、余計でした。

配送のおっさん「あのう、パンを届けにきたのですが。」
我々「（見りゃわかるよ！）ご苦労様。いや、さっき強盗が来て店内にはまだ入れない状態ですから、ここにおいて置いてください。こちらで後で入れておきますから。」
配送のおっさん「いや、でも、中に入れないと……」
我々「だから警察が止めているんだから駄目なんだってば！」
配送のおっさん「棚の前に置くように決まっているんですが…」

もう、本当に疲れた心に追い討ちをかけられました。逐一面倒くさい！！！強盗に金を盗られるよりか、盗られたあとの事後処理の方がかなり大変なんですよ！！！

ようやく全ての事情聴取も終わり、交代の早朝勤務者が到着し、もちろん誰もそんな事は思っていないのですが、一言「ごめんねー。俺たちが不甲斐ないばっかりに、強盗に襲われちゃった。。。」言うまでは半ば自嘲気味なつもりでしたが、言葉に出してみると、意外と凹みましたね…

終わりきらない仕事を片付ける為に、それから更に３０分残業をし、自宅に戻りました。

もう親も起きていて、朝の支度をしています。「あら、今日は遅かったじゃない？」「いや、びっくりしたよ。強盗が来てさ。１１万５千円も盗られた。」「へぇ、強盗来たの！？それは怖いねー」親父は暢気に笑っていました。

さてさて、強盗の話もそろそろ幕引きです。いままで長々と読んでくれてありがとうございました。本編の中では、防犯ビデオに関する記述が一切ありません。さて、何故でしょうか？いや、そんな事書いたらやばいでしょ！？だって……

散々迷ったあげく、やはりもう少し書くことに致しました。

続きを読む（エピローグ）